長期入院の患者さんが、地域で安心して暮らせる社会を。|京都市中部障害者地域生活支援センター「なごやか」

なごやか写真1京都市中部障害者地域生活支援センター「なごやか」
田中稔一さん

もし自分が何かの病気にかかって入院し、
治療が終わっても退院できず、そのあと30年続く入院生活を続けなければならないとしたら、
どんな気持ちになるでしょうか。
病院の外の世界に対して、何を思うようになるでしょうか。

現在日本では、30万人近い人が精神科病院に入院しています。
その中には症状が落ち着いたにもかかわらず様々な理由で長期間入院している、
いわゆる「社会的入院」状態にある方が少なくありません。
長期入院が必ずしも社会的入院を意味するわけではありません。

しかし、入院が5年以上に渡る人は、全国におよそ10万人。
中には30年以上精神科病院で生活している人もいます。
日本の人口当たりの精神科病床数や平均在院日数は他国と比較しても高く、問題とされています。**

・長期間入院してきた患者さんはどのような支援を必要としているのか?
・退院した後はどんな生活を送っているのか?

実際に長期入院患者さんの地域への地域移行・定着支援をしている、
京都市中部障害者地域生活支援センター「なごやか」職員の田中稔一さんに話を聞きました。

なごやかでの地域移行支援事業の内容について聞かせてください。

最初は病院から対象者を挙げてもらって病院に訪問し、
病状の安定している患者さんの支援に取り組むという形で行ってきていました。

なごやかではピアサポーターの育成・活用も行っています。
ピアサポーターはもともと入院していたけれど退院し、
今は社会に出て生活している支援者のことです。

その人と一緒に病院に訪問して、今は病院の外でこのように生活しているよ
というような、普及啓発も行っています。

―地域移行支援で退院した人はどれくらいいますか?

今年度はまだ3人ですね。地域移行支援を利用しても退院に至らない人もいます。
地域移行支援のサービスには6か月の期限があって、
京都市の場合はさらにその後6か月まで延長可能で合計1年まで利用できるようになっています。

退院の目途がついていたら期間が延長できるけれど、
ついていなかったら制度自体では一旦終了してしまうという縛りがあります。

長期間の入院の結果、外での生活に不安を感じるように

―支援の対象となっても退院できないケースには、どういった理由があるのでしょうか?

ご本人の不安感が大きいですね。対象となっても退院できなかった人は、
地域で生活することへの不安感が強く、
病院での生活の方が安心できると感じている場合が多いです。

地域移行支援の制度は1年以上の入院をしている人、
または1年未満でも支援がないと再入院の可能性が高い人が対象となっています。

長期入院の方の中には、20代後半から60歳くらいまで30年以上入院している人もいて、
そうなると退院して生活するのは無理と諦める方もいらっしゃいますね。

―対象者はどれくらいの年齢の方が多いですか?

長期入院をしている人は、高齢化してきていますね。
年齢は60代を超えている方がかなり多いですね。

ご本人だけでなく、家族にも安心してもらう

―そうなると家族のサポートもなくなってくるのでしょうか?

そうですね。逆に家族が退院に消極的で中には反対される方もいらっしゃいます。
家族が後押しになるケースも、逆に退院のハードルになるケースもあります。

入院する理由があって入院したので、それまでに家族側もいろいろ苦労があったとは思います。

ただ、治療の必要がないのに入院処遇を続けておくのは、
患者さんにとっても社会にとっても、様々な問題があります。

地域での生活ができるようにしていく必要がありますが、
なかなか難しいこともあるようですね。

病院と家族だけだと軋轢がありますが、地域での支援者が入ることで、
地域に帰ってもサポートできるという安心材料になっているとは思います。

病院側も、協力してくれる地域支援者がサポートに入ると家族に伝えて、
退院の了解をとる場合もあるようです。

―病院側としても、病院の経営のために退院させづらいということを本で読みました***
病院によって退院促進に協力的でないところもありますか?

病院としても経営的な視点も、もちろん必要なので
そういった点で退院促進したいけれどというジレンマがある病院もあります。

それでも退院促進をやっているという積極的な病院もありますね。

しんどくなったら途中でやめてもいい

―地域移行にあたって、患者さんは特にどういったサポートを必要とされていますか?

退院しても不安は少ないよ。手伝ってくれる人がいるよ、
という働きかけが一番重要ですね。
継続して退院したいという意欲を持ってもらうことが今の仕事です。

―退院したいという気持ちに波はありますか?

あります。だからといって無理することはないので、
しんどくなったら途中でやめてもいいし、
またやりたかったらもう一度言ってもらっていいと患者さんに伝えるようにしています。

刺激の少ない病院から退院して外に出ていくとなると、
しんどさや期待など、いろいろなことが出てきます。

どういった気持ちになるかは人それぞれですが、何かしらの変化は必ずあるので、
病院側とも相談して様子を見ながらやっています。

―患者さんが退院したあとは、どういったサポートをしていますか?

患者さんの課題に合わせてサポートしています。
一人暮らしで調理や掃除が必要ならヘルパーの支援を利用してもらったり、
服薬が必要なら病院と相談して訪問看護を利用してもらったりしていますね。

日中の居場所がないなら通所先を一緒に探すこともあります。
生活するために必要なことはなんでも調整します。
食事のことなど、どれひとつとっても患者さんが病院の中では
していなかったことなのでしんどさはあると思います。

30年間の入院生活の後、ピアサポーターとして働く人も

―退院後、新しい生活をどんな風に送られるのでしょうか?

人それぞれですが、30年以上の入院ののち退院してピアサポーターとして
今一緒に働いている人は、病院よりも地域にいる方が楽しいと言っています。

もともと勉強が好きな人だったので、放送大学の勉強をしたり、
好きなテレビを見たり、外出をしたり、友達と遊んだりもできるという話をしています。

病状が悪くなって不安になったりしんどくなったりする人も中にはいるけれど、
そういった場合は一旦再入院して、回復してからもう一度取り組むなど、様子を見ながらやっていますね。

―ピアサポーターさんの働きかけが患者さんの助けになっていますか?

そうですね。同じように長期入院していた人が地域に出て生活しているのを見て、
他の患者さんも自分にもできるかなと思ってくれているみたいです。

ピアサポーターさん自身も励まされるという話を聞きます。
自分が役に立つことが生きがいになっていると。

病気がその人のすべてではなく、その人の中にたまたま病気があるだけ

―障がいを抱えた人も快適に暮らすために、地域の人にできることって何かありますか?

あまり特別視をしないでほしいというのはありますね。
障がいを持っている人は、それぞれしんどいことや、目立つことがあるかもしれないです。
けれどその病気の人だからそうなのだというのではなくて、
同じ病気でも人によってそれぞれ違うから、その人の特徴としてちゃんとわかってほしい。

いろいろな報道がされるから、病気を持っている人は危ない人だと思ってしまうこともあるかもしれません。
だけど、その人はあくまでその人で、

その人の中にたまたま病気があって症状が出ているだけで、
病気がその人じゃないというのを意識してほしいなというのはありますね。
なごやか写真2

―最後に、学生に向けてひとことお願いします。

社会的入院で入院されている方がいるということを知ってもらえたらいいかな。
そしてそれ自体が、人権の侵害だと、知ってもらえたらいいです。

最近は問題が起きたらすぐ入院させるという流れになってきているように感じます。
入院については必要な人もいるから全部が間違っているとは思わないけど、
何か違うからすぐ通報するというのではなく、
もう少し優しく見てもらえたらありがたいところはあると思います。

あとは、いつ自分が障害を持つことがあっても、
おかしくないと思っておいてもらえると嬉しいです。

いつ自分がそうなるかわからないと思えば、
もう少し障害を持つ人に優しくなれるかもしれません。

誰でもいつ心の病にかかったり、交通事故で身体障害を持ったりするか
わからないですからね。

いつ誰がどうなるかわからないからこそ、
障害を持った人のことを優しく見てもらえる社会になればいいと思います。


*平成28年 厚生労働省「最近の精神保健医療福祉施策の動向」p13
http://www.phcd.jp/02/kensyu/pdf/2015_temp03.pdf

**平成26年 厚生労働省「第8回精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」p2
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000046405.pdf

***民間の精神科病院の多くが経営維持のために入院費を必要としている現状がある。
精神科医療費に占める入院費の割合は約75%と高い。

平成25年 厚生労働省「精神障害者に対する医療の提供の現状」p12
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000048927.pdf

京都市中部障害者地域生活支援センター「なごやか」

なごやか 写真3

平成17年度から京都市の退院促進支援事業の委託を受け、
精神科病院の長期入院患者の地域移行支援・地域定着支援に取り組む。

平成27年度までで71名の方の支援に関わり、
そのうち48名が支援中に退院している。

障がいのある方が地域で生活をするための相談援助・障害福祉サービス等の
利用援助や調整、振り返りなども行っている。

ホームページ:http://kyoto-kosainokai.jp/nagoyaka/

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